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中共と長く関わってきた外交官の目から見た、リアルな中共を「大地の咆哮 元上海領事が見た中国」で知りました。
今回のPHP研究所刊「大地の咆哮 元上海領事が見た中国」を読むきっかけは、サイト名は失念しちゃって分からないのですが、そこで、現代の中華人民共和国(以下中共)という国と、その国民をよく知るには、この「大地の咆哮 元上海領事が見た中国」を読むと良いよと紹介されていたんです。未読の本が多量に溜まっていた事と、地元の本屋に売っていなかったのでスルーしていたんですが、出先の本屋でたまたま見つけてしまい、コレも何かの縁かなと思い、読むしかないなと購入した次第です。
著者の杉本信行氏は、元外務省官僚で、73年に任官。74年の語学家研修で中共に留学以来、中共外交を主に担当され、在上海日本国領事館総領事(2004年に起きた上海領事館員自殺事件の時の総領事)まで務めた人物です。途中、欧州や台湾で勤務をされていますが、約30年近く、急激に変化発展する中共を、外交の第一線で見続けてきた人物で、この本を上梓後、癌で亡くなられている故人(中共の環境汚染が原因?)です。実際に現地にいた日本人から見た中共という国が、どういう国なのか、ニュースとかからではうかがい知ることの出来ない、知られざる部分を分かり易く教えてくれるのではと期待して読み始めました。
最初に断っておきますが、本書は、中共の急速な経済の発展にばかり注目し後、数十年で経済大国になるという論調のものではありません。
第1章は、著者が74年の語学家研修で中共の北京に留学する所から始まります。文化大革命末期の全体主義が支配する中共は、今の北朝鮮の様な監視社会であったことが窺い知れます。当時中共を実質支配していた4人組に反対する76年に第1次天安門事件が起きていたというのはオドロキでした。この文革の10年で、人々の文化や思想、道徳、信頼といったモノは、徹底破壊され尽くされた後に、経済発展へのスタートラインを切った訳ですから、全てを無視した拝金主義へ突っ走るのも解らない話ではないなと思いましたヨ。
第2章から第5章は、日本政府が、中共の外交政策に翻弄され、その時々に取ってきた場当たり的なお人好し対中政策の内情が吐露されいます。経済協力を進め、中共を懐柔し、当時冷戦状態にあったソビエト連邦に対する防波堤とする日本政府の外交政策と、その下心をうまく見透かして、自国の発展に利用してしようする中共の狡猾な外交政策との間に立たされた現場の苦労と苦悩が伝わってきますヨ。しかも、後手に回って失策しているという情けない結果なのが辛いですね。しかし、中共が日本に突きつけ来る嫌がらせ紛いの注文は、全て内政に向いている事がよく解ります。
第6章では、台湾(中華民国)について、中共との違いを歴史的な部分も含めて解説。東アジア地域において、いかに台湾が、日本とって重要な国であるかが解ります。
第7章では、日本政府が行っている対中ODA(政府開発援助)の実態が書かれいます。日本のODAで建設しましたと記してくれと言わないと記さないし、マスコミにも発表しないという姿勢は、流石、中共といったところか。信頼しない相手からは、貰うもは貰っておいても感謝しないというのは本当のようですね。ただ、「草の根無償資金協力」の効果が出ているというのが面白い。詳しいことは読んで頂くとして、中共人民は、自分達自身が利益の享受者になると分かっているものには、感謝するというのは、直接的な金には弱い国民性を如実に表していると思いましたね。こういった所から、反日思想を溶かしていく必要があると訴える著者には賛同しますヨ。しかし、こういう成果をなんで日本政府は大々的に宣伝しないのか、それが不思議です。
第8章から第14章まで、現代中国の実態が書かれています。対日進出企業が、中共地方政府のコロコロ変わる規制に悲鳴を上げている姿。水の確保が難しくなり争奪戦が繰り広げられていたり、地下水の過剰取水による地盤沈下に悩んでいたりと様々な問題が噴出している様。農民を差別し、先富論のもと大きく開く都市との格差、そしてエイズ。それら深き悩みへの噴出先を自らでなく日本へと向けさせる反日政策。「靖国神社参拝問題では、「日本はこれまで二十回以上も謝罪を行ってきた」にも関わらず、不満の矛先を中共政府へ向けさせない為に、姑息かつ執拗に問題を解決させないようにする姿勢。富の再配分が出来ない歪な経済システムと、国民隅々まで行き渡った隠蔽体質。常の人民解放軍部(この軍隊は国軍ではなく党軍で、今だに地域武力勢力時代の体質を引き摺っている)暴走の危険をはらんだ軍事費の伸びの懸念と、実はそれは内向きの政策であるという。まぁ、現場でしか知ることの出来ない内容が天こ盛りです。正直、中共の経済発展は今がピークで、これ以上の発展はあり得ないのではないかと思うに十分な破壊力がありますヨ。
第15章では、在上海日本国領事館の業務の中から見えてくる、中共で働く日本人の悲哀が書かれています。年々増加する自殺者は、いかに日本人が、中共という国に馴染めないかというのが良く分かる数字です。上海のビルが偽装の固まりで機能していない事を書いていて、バブルの崩壊が確実なモノであることが分かります。最近では現実に、株価の低迷で崩壊が始まった事を知らせる報道が相次いでいる事からも、この記述の正しさが証明されているといえます。
第16章では、さらに、中共国民に広がる宗教の普及が、情報を統制する政府を揺さぶり始めている現状が書かれてます。拝金主義も行き着くところまで行き、負けた人々が心の拠り所を宗教に求めるのは自然な流れなんですが、教義による人心の回復と同時に、抑圧してきた中共政府に対しての不満が、フツフツと煮えたぎり始めているようですね。また、経済発展により外国の目が中共に向けられるようになった事で、今までのような傍若無人のような振る舞いはできなりつつあり、それが中共の救うと書いているのですが、個人的には、それで収まらず、中共という国家の崩壊まで進みそうな気がしますヨ。下手すりゃ内戦まで起こすかも知れませんヨ。
読んだ結論。中共という国は、その国家そのものが偽装の固まりであり、その偽装を内部に知られないために、露骨過ぎる恫喝と懐柔の外交を行う国であるという事が、確認できましたヨ。外交の本質とは言え、やり過ぎは禁物です。
ちょうど、本書を読んでいる最中に、世界同時株安から中共のバブル崩壊が始まったようで、本書を読み終わって思うに、今が、中共に進出している企業にとって傷口を小さい内に撤退出来るラストチャンスという事でしょう。本書の記述から、時間が経てば経つほど、崩壊のスピードは早くなると思いますヨ。
ちょっと、官僚目線が入っていてヘタレな部分が散見されるのですが、日中外交関係の問題点と今後を過去から理解する上で大変参考になる本だと思います。三国志や水滸伝等々の中国古典文学の幻想を払拭する為にも、是非とも読んで欲しいと思いますヨ。
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