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「バルトの楽園」はイイ映画でした。けど、地味なのでヒットは難しいかな?

この夏公開の話題作の影に埋もれ、主演が松平健という渋めのキャスティングの為か、イマイチ盛り上がりに欠ける「バルトの楽園(がくえんと読む)」ですが、実は、この映画、個人的には凄く楽しみにしていたんですヨ。日本でのベートーベンの「交響曲第九番」の初演が徳島にあったドイツ人捕虜収容所だったという話しは昔から知っていて、過去にテレビで放送されたこの話しを題材にしたドキュメンタリーなんかも観てましたので、ナカナカ感動的な話しなのを知っていたというのが大きいです。地味な話しなのと、ドイツ人俳優を多く使わなければいけないので、映画化されるとは正直思ってませんでした。
しかし、劇場の中は、松平健目当ての人が多いのか、平均年が高いこと高いこと、確実60歳代はいってましたね、多分、それ以下の世代は自分だけだったような気がします。こう書いてしまうと、年寄り向けの重々しい内容なのかと誤解されそうですが、どちらかと言えばドイツ人の若い兵士たちが主人公なので、明るい雰囲気の映画です。
基本的に、この映画は、捕虜収容所の所長松江豊寿を主人公としたドラマと、ドイツ人捕虜達をを主人公としたドラマとか、同時進行で進んでいきます。最初、中国の青島で捕虜になったドイツ兵たちは、よく映画とかで出てくる理不尽な事を平気命令しまくる日本軍の将校が所長を務める収容所に入り、酷い待遇を受け、脱走を企てる者まで現れるのですが、この前フリのお陰で、松江豊寿という人がおこなった捕虜統制が素晴らしいモノであったかを印象付けるには大成功でしたね。ちょっと悲惨過ぎるかなと思いつつ、時間も心もち長いようにも感じたのですが、本来、この映画は悲惨さを訴える事が目的ではないので、これがギリギリの線かなと思いました。いきなり、松江豊寿が所長を務める収容所の話しにする事も可能だったとは思いますが、戦前の日本軍を美化し過ぎる内容になってしまったと思いますので、これで良かったと思いますヨ。
最初、戦争のわだかまりから心を通わす事が無かったのが、物語が進むにつれて、松江豊寿を緩衝材にして、登場人物達がうち解けていく姿は、とても、心が温かくなりました。戦争と言うモノは、人の生き死にあるので、どうしても恨みの気持ちが残るモノだと思うのですが、相手を蔑むことなく「許す」という気持ちを持てば、理解し合えるんだという事と、敗者を思いやる気持ちの大切だという事も教えられた気がします。ただ、そこに至るまでの演出は、とても淡々としたものなので、物語が激しく動くような演出が好きな人には、ただ単に退屈なだけかもしれ無いと思ったのが、マイナスポイントですかね。
そして、物語はクライマックスの「交響曲第九番」の初演へと進んでいくわけですが、この映画の淡々とした演出は、この演奏シーンの為にあったのかと言うぐらい盛り上がります。「歓喜の歌」が歌われる辺りでは、もう圧倒されてました。そして、一転、静かになりドイツ兵達は祖国へと帰っていくのです。お涙頂戴ではなく、希望に満ちた終わり方に、なんだか晴れやかな気分でした。
最後に誰もいなくなった収容所が映し出されるのですが、劇中で説明がありませんが、この物語から30年後、日本とドイツが、第2次世界大戦で辿る運命を考えると、晴れやかな気持ちの分だけ、ちょっと暗い気持ちが影を落とすんですよね。
というわけで、自分的にはとても満足できた映画でした。食わず嫌いも悪いとは言いませんが、個人的には、是非観て欲しい映画ではありますね。ちょっとだけ日本を好き度をアップしてみませんか?