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なんだか微妙なデキの｢スチームボーイ｣。

｢AKIRA｣で世界中の映画人に影響を与えまくった大友克洋監督の久々の新作｢スチームボーイ｣をみてきました。
個人的には、16年前の｢AKIRA｣公開の時の熱狂も冷めた目で見ていたほど、大友作品は全く壺にはまっていないんですけど、本筋とは関係ない箇所の情報過多が特徴の大友作品に久々に浸ってみるのもいいかなと思いチケットを購入しました。
｢AKIRA｣以降は短編作品を多く制作していたので、長編作品としては2作目ということになる｢スチームボーイ｣は、事前の映画評で｢大友色は薄れ、活劇映画になっている｣みたいな事が書いていたのですが、大友色は薄いどころか濃い濃い。正直、情報の大洪水です。例によって本筋とは全く関係ないですが…。

日本のアニメ映画としては破格の制作費と製作期間に9年もかけた作品なんで、映像はかなり手が込んでいます。背景とか動画とか細かいところまで書き込んでいるんです。大友克洋監督は漫画家時代から、背景の書き込みや動きのリアリティへの追求は凄まじいモノがありましたが、今回もそのこだわりは尋常ではありません。ただ、激しく画面が切り替わる戦闘シーンなどでは、細かく書き込んだスタッフの苦労は報われていないような気がするんですけど…。
でも、この映像は、家のテレビで見ると魅力半減です。大スクリーンで見るからこそ活きてくるので、世界最高峰の日本のアニメーターの職人芸を見るというだけでも、お金を払う価値はあると思います。まぁ、そんな職人芸はカスだと思っている人にはオススメしませんが…。

でもね、ここまでやるんだったら、実写で撮った方が手っ取り早し、もっと凄い映像になるという意見はは出そうな気がするんですが、アニメでやってるから24億円で済んだんですよ。大友監督のこだわりを考えると実写だとアニメの制作費の3倍以上はいきそうです。映画への投資はリスクが高いと渋る日本の金持ちが、投資できる金額じゃないので仕方がないでしょう。コレが日本の現状。

で、肝心のストーリーなんですが、19世紀のイギリスを舞台に、科学がもつ光の部分(平和利用)と闇の部分(軍事利用)を描き出しています。科学が貧富の差を拡大し、過酷な労働を強いて必ずしも人を幸せにしていなかった時代を舞台にしていたので何かそういう部分でのメッセージみたいなモノがあるのかなと思っていたんですが、実際は単に科学に対する理想論と現実論の応酬と薄甘い反戦思想で話が終わってまったのが、題材が良かっただけ残念です。
｢で、だから何?｣っていうのが、ストーリー的な部分の率直な感想ですね。9年間という製作期間の長さの弊害がストーリーのほうに出ちゃったみたいですね。全部を面白くしようとするばかり、いじり過ぎて全体にメリハリがなくてフラット、感性じゃなく知識で物語を作りましたって感じてしまいました。悲しいぐらいにドンパチしか印象に残ってないです。
脚本のみで大友監督参が参加した｢メトロポリス｣のように、短期間で考えて出来に不満が残るぐらいの方が、観客にはウケがいいんじゃないかなと個人的には思います。

最後のエンドロールの背景の内容が気になるんですが、もしかして、また9年近くかけて作るんですかね。気の長い話だ…。

でもね、映画館の出際に小学生の女の子が｢あ〜面白かった。｣っていう言葉を聞いたとき、すれてしまった自分に一抹の寂しさを感じました。