Book
冷静に格差社会を分析した「格差社会の結末」は、格差問題を知る上でナカナカの良書ですヨ。
今回は、いつもの如く、本屋で棚を見ていて、その題名に引かれたソフトバンククリエイティブ刊の「格差社会の結末 富裕層の傲慢・貧困層の怠慢」です。題名もなんですが、帯に書かれた「日本の近未来を大胆にシミュレーション」というキャッチコピーから、この日本の格差社会の行き着く先はどういう社会なのだろうかと興味が湧いてきたので買ちゃったワケで、毎度の事ながら編集者が考えるコピーに弱い自分です。で、読み始める前に著者の経歴を見たら官僚出身の大学教授さん。細かいデータの羅列を覚悟して読み始めましたヨ。
内容は、ほぼ2部構成となっていて、前半が小泉政権の経済政策がどういうモノであったかという検証。後半が、検証から導き出される今後の格差社会の行く末を予測するといったところです。
小泉政権の経済政策を語る時、アメリカ政府からの命令書ともいえる「年次改革要望書」や「外国貿易障壁報告書」の存在のお陰で、大マスゴミが誘導しているような、悪か善かという二元論に陥りやすいのですが、本書は、官公庁から発表されているデータを細かく検証し、小泉政権の経済政策がどういうモノであったか客観的に検証しています。様々な角度から、かなり細かく検証しているので、何がどう格差が生まれているのか、数字に弱い自分みたいな読者にも納得できる内容です。
大マスゴミは、とかく小泉政権を格差社会到来の戦犯にしたがりますが、歴代の自民党政権が行ってきた経済政策が、格差を広げた事がよく分かりましたヨ。景気回復の方策をアメリカだけに求めたワケですから、あの守銭奴国家のやり方を日本風にアレンジし格差をできるだけ平均化ようとしても、格差ができるように(しかも大きくなる)作ってあるわけですから、格差が広がらないわけがないって事です。今までは、そのスピードが遅かっただけで、それが小泉政権の時に、より速いペースで進めた為、格差が予想以上に広がったと理解しました。
後半に入ると、この検証結果を基に、他の先進国で始まっている所得再配分や、経済・社会規制をして格差を是正する政策や、日本が過去行ってきた格差の是正対策を紹介しながら、現代の経済情勢に合致するような現実的な政策案を提示しています。実際に現場で法を施行してきた側の人ならではの夢物語ではない政策案は、何だか実行できそうな感じがするのですが、いざ話が、大企業の経営姿勢、労働者の考え方等々、個別な事例になってくると勢いが鈍ってきます。特に福祉分野では、生活保障給付で格差是正を行わねばならず矛盾だらけな上、米国主導のグローバル経済のお陰で、守銭奴と化した大企業や富裕層の「日本を出て行く」という脅し付減税圧力、不景気を理由に、従業員の非正社員化や、社会保障費とか税金等社会的負担から逃げ回る企業とか、どうも、格差社会というのは下に行けば行くほど問題が複雑化するもののようです。そこをどう変えていくか、本書では対案を示しつつ政治に注文を付けています。しかし、個人的には示される対案にコレだっていう驚きが薄かったのが残念。突飛な案を出しても採用されなきゃダメっていう官僚世界の人だったワケですから、まぁ、そこは目を瞑っておきます。
全部読み終わって、日本が米国の方ばかり向いている経済政策を続ける限り、格差是正は難しいというのが感想ですね。本書が指摘しているように、日本人は、こういう政治問題にナカナカ怒らない国民性ですから大変です。今の阿部政権には、格差を拡大する米国主導のグローバル経済に与しない日本独自の経済政策を期待したいけど無理なのか、そうでないのか。これから種を蒔けたとしても、格差是正という実を収穫できるようになるには、10年ぐらいかかそうですのでナカナカ見通しは暗そうです。
とりえず、本書が示している格差是正についてはあまりスッキリとした感想は得られないと思いますが、この格差社会がどういうモノなのか興味がある人は読んでみるといいですヨ。
- 格差社会の結末 富裕層の傲慢・貧困層の怠慢
- 中野 雅至
- ソフトバンク クリエイティブ 2006-08-17
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- コンパクトに、手堅くまとまっている
- パワポみたくな。
- ま、バランスよく穏当にまとまってる感じ。読んで損はないでしょう。
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by G-Tools , 2007/09/03